ブランドを立ち上げて6年が過ぎた頃、スタッフと8泊10日で北欧を旅した。目的は北極圏近くのコテージで自給自足に近い生活を送ること、もう一つはデンマークのルイジアナ美術館や街の灯りを散策すること。メンバーはスタッフ5人とtruckの黄瀬くん、フィンランドの友人・熊野くんの7人。灯りを感じるには一番いい、12月、冬至の新月を選んだ。運がよければ、オーロラが見えるかもしれない。
フィンランドのヘルシンキから北極圏近くのコラリまでは、寝台列車で13時間。昼なのにあたりはどんより薄暗い。日照時間は1日たった20分。太陽は顔を出す前に沈んでしまう。4日分の食料を買い込み、コテージへ向かう途中、森と湖しかない。
着いて、最初にやらなければいけないことは、雪かきと薪割り。水道がないので、目の前の湖の氷に穴をあけ、水をくまないといけない。厚さ30㎝の氷に穴をあけるのに1時間もかかってしまう。日が暮れるまでに暖炉に火をおこし、キャンドルを灯し、料理やサウナの用意をしないといけない。それだけで1日が終わってしまいそうだ。
日本と違い、何をするにしても手間と時間がかかる。でも、なぜか充実感があった。すっかり暗くなり、ふと窓越しに外を見ると、真っ暗なはずの湖面が薄青く光っている。その瞬間、みんなで湖の真ん中まで飛び出した。見上げると、いろんな方向からオーロラが現れ始めた。息を飲む瞬間だった。
2日目のメインイベントは、 釣りをすること。スーパーで買った簡易な釣竿セットと、餌のイクラと地元のウオツカを持って湖へ行った。が、まったく釣れない。体が冷えきってきたので、イクラをアテに飲み始めた。気がつくと、あたりは真っ暗。帰る方向も場所も何もわからなくなってしまった。
途方に暮れていると、遥か遠くに小さな灯りが見えた。スタッフが置いてくれたランタンだった。このときほど、灯りのありがたさを感じたことはない。雪原で暮らした4日間で、僕らはキャンドルのほのかな灯りに徐々に慣れ始めていた。

コテージ前の木々の向こうに、氷の張った湖が広がる。シーズンオフで私たち以外だれもいない。

生活に必要な水を確保するため、専用器具を使い、湖氷に穴をあける。水は貴重だと実感する。

日照時間は1日20分。朝日か夕日かわからない。長いようで短い、あっという間の4日間だった。

気がつくと太陽が沈んでいる、というより、ほとんどが夜。音も光もない静けさが広がる。
2日目のメインイベントは、 釣りをすること。スーパーで買った簡易な釣竿セットと、餌のイクラと地元のウオツカを持って湖へ行った。が、まったく釣れない。体が冷えきってきたので、イクラをアテに飲み始めた。気がつくと、あたりは真っ暗。帰る方向も場所も何もわからなくなってしまった。
途方に暮れていると、遥か遠くに小さな灯りが見えた。スタッフが置いてくれたランタンだった。このときほど、灯りのありがたさを感じたことはない。雪原で暮らした4日間で、僕らはキャンドルのほのかな灯りに徐々に慣れ始めていた。

地元の釣り人に道具を借り、釣り糸を垂らして初めての1匹。今晩のメインディッシュに。

魚の餌のイクラをアテにウオツカを飲んで寒さをしのぐ。寒い国の人が酒が強いことがわかる。

湖上の穴釣りに夢中になりすぎ、気づくとあたりは真っ暗。帰る方向がわからなくなる。

しばらくして、遥か遠くにこのランタンの灯りを見つけ、コテージまで帰ることができた。

オウルの友人宅でクリスマスパーティ。フィンランドのサウナやクリスマスなど話は尽きない。

レインボートラウト。初めて燻製にして食べた。チップの香りがとてもよく、保存性もアップ。

オウルの友人宅でクリスマスパーティ。フィンランドのサウナやクリスマスなど話は尽きない。
デンマークに行くと、必ず訪れるのがルイジアナ美術館。海沿いの広大な庭の中、回廊のように配されたさまざまな展示スペースがとても美しく、いつ来ても飽きることがない。展示もすばらしいが、僕のお気に入りはレストラン。暖炉を囲みながらソファ席で老若男女がくつろいでいる。海の向こうにはスウェーデンが見える。自然と目頭が熱くなる光景だ。
北欧に来ると、あらゆるものには理由があって、納得させられることがたくさんある。それは単なる外見でなく、人々の思いから生まれた本質的な在り方を形にしているからだと思う。
豊かな暮らしとは、モノで満たされたり、便利で効率のいい生活を送ったりすることではないと思う。四季の移ろいを感じたり、朝日の輝きや沈みゆく夕日に何かを思ったり、大切な人と充実した時間を過ごしたり、家族と温かな食卓を囲んだり。なにげない日常の中に喜びややさしさを感じ、美しい自然を大切にしながら、ひとつひとつていねいに暮らすこと。北欧はそのことをいつも教えてくれる。

美術館内のレストラン。暖炉をとり囲むようにソファが配置され、1段低くなって居心地がいい。

展示スペースにあるリビングルーム。ペンダントがとても低く吊るされているのが印象的。

ルイジアナ駅から美術館までの約30分の道のりも、すてきな家を見ながらあっという間。

住宅街にひっそりと佇む、ルイジアナ美術館の入り口。今まで見てきた中で一番好きな美術館。

美術館事務所にルイスポールセン社のPH4/3が美しく光る。オフィスも明るすぎることはない。

美術館内のレストラン。暖炉をとり囲むようにソファが配置され、1段低くなって居心地がいい。

展示スペースにあるリビングルーム。ペンダントがとても低く吊るされているのが印象的。

海沿いの小高い丘から、遠くスウェーデンを眺める。北欧の太陽と海と風を感じる。

列車に乗って約50分で、コペンハーゲンのオスターポート駅に。夕暮れの光がなんとも美しい。

コペンハーゲンの街路灯。ワイヤーで吊るされ、下方向だけ照らす。主張せず、街にとけ込んでいる。