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北欧を旅したとき、窓越しに見た忘れられない光景がある。
ある家庭のダイニングにとても低く、
目線ほどの高さにペンダントライトが吊るされていた。
ペンダントライトの灯りが、
ほの暗い部屋でほのかにテーブルを照らしていた。
夕食の準備をする家族がとても幸せそうに見えた。
初めて灯りの素晴らしさに気付いた瞬間だった。
夜が長く、多くの時間を家ですごす北欧の人たちは、
灯りを単に部屋を明るくするものではなく、
心地よい時間や豊かに暮らすための大切なもの、
生活の一部と考えているんだろう。
自分にとって大切なものが何か、わかっているのだと思う。
豊かな暮らしとは、モノで満たされたり、
便利で効率のいい生活を送ったりすることではないと私は思う。
四季の移ろいを感じたり、朝日の輝きや沈みゆく夕日に何かを思ったり、
大切な人と充実した時間をすごしたり、家族と温かな食卓を囲んだり。
何気ない日常の中に喜びや優しさを感じ、美しい自然を大切にしながら、
ひとつひとつ丁寧に暮らすこと。灯りはどんなときも、
よりそうように私たちのかたわらにある。
私はキャンドルの灯りが好きだ。ゆらぎのある炎は心を落ち着かせてくれる。
陰影も美しいし、明るすぎないことでものの存在を引き立ててくれる。
普段の生活の灯りも、キャンドルのように明るすぎなくていい。
私の家は低く吊るしたペンダントライトが
ほんのりとダイニングテーブルを照らし、
リビングにはスタンドライトが2つあるだけ。
必要なところに必要な灯りがあれば、それで充分事足りる。
しばしば、食事のあとに夫婦そろってソファで居眠りしてしまうことも。
無意識のうちに気持ちがほぐれているんだと思う。
灯りは人の心に心地よさや安らぎを与えてくれる。
そして気持ちを豊かにすると私は思う。