手にとって実際に見ていただいても、なかなか伝わりにくい、
flameの照明の、素材へのこだわりや細部への配慮を
この場を借り、少しずつ言葉にして伝えしていきたいと思う。
初回は、flameを芦屋に移して最初にとりくんだflare brassのことから。
flare brassをつくるまで
5年前、芦屋への移転を機に店と住居を一緒にした。
それまで店と住居は別の場所にあり、
店や照明に対する価値観と、暮らしの価値観が異なることをあまり意識もしなかった。
けれども経験を重ねるうち、そんな自分の在りかたに違和感を感じるようになっていた。
移転はいいきっかけだった。新しい場所では本当にほしいと思えるものだけをつくろうと思った。
素材のよさをとりこむ照明づくり
どんなモノも、使っていくにつれ、変化していく。
使い込んだ木のテーブルの艶やかなあめ色、古い建築が色褪せて木々となじむ風景――。
モノは、使ううちに変化するのが本来の姿だし、
その変化は暮らしによりそうような、空間になじんでいくようなものがいいと思う。
照明をつくるとき、そうしたモノの変化――時を経てよさがひきだされるまでをデザインしたかった。
本当にいいものは、そういう時間を重ねる喜びや、使い込む楽しみも与えてくれるものだから。
最初の素材に選んだのは、真鍮(brass)。銅と亜鉛を混ぜ合わせた、5円玉にも使われている金属。
最初は金色をしているが、使い始めたときから、空気にふれることで黒っぽく変化していく。
重ねた時間によって、使っている空間によって、異なる変化をみせてくれる素材でもある。
定石とその先にある新しさ
白は光を効率よく反射する。
電球の光よりも白く、より明るく空間を照らすことを意図し
最初は内面を白塗装したシェードをつくった。
しかし、内面を白くするというのはあくまでも照明のセオリー通りというか、基本的な考え方。
素材である真鍮らしさをまだ充分に生かせていないとも感じて、
次に内面も外面と同様、真鍮にオイル仕上げを施しただけのシェードを試作した。
今度は真鍮のよさは引き出せたものの、
シリカ球(白い電球)を組み合わせると、とってつけたような違和感が出てしまった。
そこで、ふとクリア球(透明でフィラメントが見える電球)はどうかと、組み合わせてみた。
これがしっくりきた。
▲上:brass L white+シリカ球、下:brass L naural+クリア球
クリア球は、知ってはいるものの最近は家庭用の照明器具に使うことも少なくなった、レトロな存在。
シリカ球とは基本的に色味が違い、色温度が低いぶん、たき火の炎にも似た温かな色味をしている。
真鍮シェードとの相性もよく、いっそうツヤのある温かさをたたえた光が広がった。
この組み合わせは僕自身にとっても新鮮で、長く照明に携わっている中で改めてクリア球のよさを実感した。
こうして、真鍮(brass)とクリア球という組み合わせが生まれ、flare brassにたどり着いた。
空間で灯りを考えること
新居のダイニングテーブルに、mesureとクリア球をつけたflare brassを組み合わせると
真鍮シェードがクリア球の温かな光をあわく反射し、さらにツヤのある情緒的な光が空間にそっと広がる。
「家でくつろぎたい」という想いによりそう最上の灯りだと思う。
▲mesure+flare brass
ほかの照明についても言えることだが、
とくに真鍮とクリア球という組み合わせの場合(flare brass、brass S natural、brass L natural、miel)、
クリア球の特性を生かすには、空間の灯りのトーンと色味を意識して揃えることが重要。
たとえばダイニングにflare brass+mesureを配し、ほのかな温かみのある灯りをテーブルの上に落としても
リビングやキッチンに白色の強い光を置いてしまうと、バランスが悪いばかりか、温かみのある灯りを打ち消してしまう。
空間における灯りのバランスを意識しないと、そのよさを味わうことはできない。
また環境に配慮しLED電球を使いたいというお客さんの声を多く耳にする。
昨今、LED電球の品質は向上し、電球色やクリアタイプ、調光対応など、白熱球と遜色のないものも登場している。メーカーや製品によってその色合いや機能、特性は異なるので、確認のうえ購入することをおすすめしたい(現在LED電球の比較記事も準備中)。
最後にもうひとつ。
先ほど話をした、内面白塗装のシェードはbrass S white、brass L whiteという製品につながった。
このふたつの照明は、シェード内側の白により、明るくすっきりとした光が広がるので、
蛍光灯やLEDの白い光と組み合わせてもバランスよくまとまる。
神達謙一
▲内側ホワイト塗装のbrass L white(白熱球を使用)